万徳に支えられているもの

ミネソタ州育ちの私にとって、子供の時に一番好きなスポーツはスキーでした。高校のスキーチームにも参加していましたし、イタリアのオリンピックスキー選手アルベルト・トンバは私のヒーローでした。ミネソタ州は山はありませんが丘はあるので、ダンプカーで運ばれた土によって周囲の平らな農地よりも年々少しずつ高く作られていった丘が、チームが練習に使ったスキー場でした。試合では一度も勝った事はありませんが、スラロームのコースが毎回違うパターンに作れていたお陰で、特にチャレンジを要さない丘でも毎日行っても飽きないような楽しい練習の場になっていました。

古代ギリシアに由来があるオリンピック大会では世界の最も優秀な選手らが集まり、そこで勝利した選手は世界一と讃えられていたことでしょう。オリンピックに登場するためにはそれぞれの国内でも勝ち続けないといけません。それら勝ち続けてきた選手らの中で、更に優勝する選手は内面の意志、戦略、集中力が備わっていて、さらに外側の速さと力強さといった最高の要素が備わっていると言えるでしょう。

自分でオリンピック大会に出場できる人は非常に少ないですが、私たちは皆それなりに人生の中のチャレンジに向き合いながら頑張っているので、オリンピックやパラリンピック大会の選手たちが勝っても負けても、彼らが頑張っている姿を見ていると多くの励みをもらうことができます。

私たちの人生における様々なチャレンジの中で、自己中心的な考え方によって起こるむさぼり・いかり・おろかさという三毒の煩悩に勝服することこそ最も重要であると仏様は説かれています。その三毒の煩悩に勝服し悟りを開かれたのが仏様です。

今年のオリンピックやパラリンピック大会でメダルを獲得した選手たちは内面も外側も優秀な能力が備わっています。三毒の煩悩に勝服した仏様は内面、外側ともにさとりの功徳を備えられています。仏様の内面には智慧と慈悲が備わっており、その智慧と慈悲は全ての人を救うため仏様の言葉と行いによって外側に現れてくるのです。

「南無阿弥陀仏」の名号をお称えするお念仏は、私たちがさとりの無量である智慧と慈悲に出会うため阿弥陀如来にいただきます。12世紀の日本、法然聖人は阿弥陀如来の名号に備わっていることを明らかにされました。

阿弥陀仏の名前は万徳(法蔵時代の修行の結果、手にすることができたあらゆる功徳や、阿弥陀仏になってからの一切の功徳を合わせたもの)に支えられているもの。すなわち、阿弥陀仏の四種の智慧、三種の仏の姿(救済すべき対象に応じて姿をかえることや、法蔵時代の修行によって得た姿、あるいは永遠不滅の真理を表す姿、という)、仏のみが持つ十種の力、説法するに当たっていささかの畏れも抱かぬ智慧、等の内面の悟りがもつ功徳、仏の身体に備わっている特有の姿、光明、説法、衆生を利益すること等の、一切の外部に向かう働き、こうしたものが皆悉く阿弥陀仏の名号のなかに収め取られてある。

(『選択本願念仏集』阿満利麿訳 50頁)

人生のいろいろなチャレンジに向き合う時、仏様の教えをよりどころとすることによって智慧の光が歩むべき道を照らしてくれます。仏様の智慧の光に常に照らされていることに気づく時、私たちは無明の暗みと恐れから解放されます。全ての功徳が備わっている名号をいただく私たちは、阿弥陀如来の功徳の恩に報謝するためいつどこでも「南無阿弥陀仏」を称えるのです。

南無阿弥陀仏