おじいちゃんの智慧

12月13日にサンマテオ仏教会のご門徒さん数人と一緒に俳優のジョージ・タケイ氏が公演したミュージカル『忠誠/ALLEGIANCE』の特別上映を見に行きました。サンフランシスコ国際空港の近くにあるタンフォランショッピングセンターにある映画館で見ましたが、その映画が建てられている土地は以前にタンフォラン競馬場であって、真珠湾攻撃の後にサンマテオを含めてサンフランシスコ周辺に住んでいた日系人はその競馬場に集合するように命令され、そこから東に何百マイルも離れている強制収容所の準備が完了するまではしばらくそこの馬屋にて生活させられていました。フランクリン・デラーノ・ルーズベルト大統領が大統領令9066号をサインしたことによって、その時、西海岸各地在住の日系人120、000人が、住んでいた家やコミュニティーを離れて強制的に収容所に移動させられました。

『忠誠/ALLEGIANCE』はジョージ・タケイ氏が子供の時にロスアンゼルスの近くにあるサンタアニタ競馬場にあった集合センターから、アルカンソー州にあったローワー移住センターに収容された経験に基づいた映画で、主人公はサリナスで農業をしていたキムラという家族です。ワイオミング州のハードマウンテンにあった収容所に移動する前、キムラ家は殆どの財産を処分しないといけなかったので、農場を本当の価値の一部で売るしかなかったです。アメリカで生まれた二世のケイコとその弟のサム、そして日本生まれの一世のお父さんタツオの家族関係がその物語の中心となっています。キムラ家の中で、異なる世代間の価値観の違いも同世代間の人の考え方の違いも見られます。対立の主な原因は収容所にて行われた忠誠心調査で、質問27:「貴方は命令を受けたら、如何なる地域であれ合衆国軍隊の戦闘任務に服しますか?」と「質問28:貴方は合衆国に忠誠を誓い、国内外における如何なる攻撃に対しても合衆国を忠実に守り、且つ日本国天皇、外国政府・団体への忠節・従順を誓って否定しますか?」が一番争いを招くもとになりました。

物語が始まる前に上映されたメッセージに、ジョージ・タケイ氏が日系人強制収容を取り巻いていた人種差別や偏見が現在のアメリカ社会によく現れています。タケイ氏がその当時の日系人強制収容の暗い歴史を明らかにすることによって、同じことが再び行われない念願を示しました。最近ベイエリアで起こった憎悪犯罪、提案されているイスラム教徒の全国登録制度や家族を離散しうる移民政策を心配するご門徒さんの何人かは私を訪ねてきて、「この状態を改善するために私が仏教徒としてできることは何でしょうか?」と聞かれました。

アメリカ社会の現状は私も心配しており、『忠誠/ALLEGIANCE』を見ながら、私がその歴史を経験なさっている方々との出会いを考えさせられました。ジョージ・タケイ氏が役したケイコとサムのおじいちゃんは収容場の厳しい生活や忠誠心調査が招いた対立の中でも冷静とユーモアを保ち、智慧の言葉を説かれます。そのおじいちゃんの人柄やあり方こそ、タケイ氏が一世の方々への尊敬と感謝を込めている部分であると私には強く感じられました。おじいちゃんは怒りや恨みを表に表しませんが、行動力がありました。ケイコもサムもおじいちゃんに相談することによって、自分の不正に立ち向かう道を明らかにすることができました。

『忠誠/ALLEGIANCE』に描かれている時代を生き抜かれた方々との出会いは、私のお念仏の生活の大きな導きとなっています。サンマテオ仏教会で過ごす日々の中で、その方々が生きた仏様の智慧の光で輝く人生を学ぶことができ、感謝の気持ちがわいてきます。サンマテオ仏教会の長老の方々は私の尊敬する善知識です。その方々の人生を尋ねますと、どんな大変な時でも阿弥陀如来の信心があれば、日頃の何気ない会話や庭仕事のような単純なことによって、ある人の人生の決断やその先の世界を大きく変えることもありうるのです。戦時の暗い時代に、仏様の光が輝く人生を送られていた方々に感謝の合掌をします。その方々のお陰でお念仏がいまもサンマテオに響いています。『仏説無量寿経』に説かれているように

たとえ世界中が火の海になったとしても、ひるまずすすみ、教えを聞くがよい。

そうすれば必ず仏のさとりを完成して、ひろく迷いの人々を救うであろう。

(浄土三部経 現代語訳 83頁)

 

南無阿弥陀仏